「成長マインドセット」を取り入れることで、組織・個人はどう変わるのか。今回は、フリーランスの編集者として「現代ビジネス」にて記事の編集を行う、滝啓輔さんにお話を伺います。
滝 啓輔
編集者。1978年、東京生まれ。國學院大學文学部卒業。編集プロダクション、出版社、ベンチャー企業などを経て、現在、講談社「現代ビジネス」編集部員。また個人事業主としても活動中(セミナー講師、出版コンサルティングなど)。書籍編集者時代の担当作は、10万部を突破した『「続ける」習慣』『てっぺん!の朝礼』『世界一カンタンな人生の変え方』など100冊以上。
前職では「ブレーキ」を外して働けていたのだろうか
ー「成長マインドセット」を読む中で印象に残った箇所を教えてください。
特に印象に残ったのは、「ブレーキ」という概念です。簡単に言うとブレーキとは、自身が目標達成に向けて突き進んでいく中で、無意識のうちにそのスピードを緩めてしまっている阻害要因のことです。
私は今の会社に入るまでに5回ほど転職を経験しています。その背景には少なからず、環境への不満がありました。しかし、本を読む前から、本当に環境だけが悪かったのか、もう少し自分自身が頑張れた局面もあったのではないかと疑問に思うことがありました。
そこで今の職場では、まずは与えられた環境になじみ、一心不乱に頑張ろうと心がけています。その感覚が間違っていなかったんだと、本を読んで自信が持てました。また、書籍の中に出てくる「2年間はその道をなるべくブレーキを踏まないで進んでみる覚悟をしてみませんか?」という言葉を読み、具体的な期限があることで気が楽にもなりました。
ーブレーキを外したことで、これまでの働き方からどのような変化があったのか教えてください。
例えば、今の職場の「らしさ」を早く掴む努力をするようになりました。普段私は、筆者の方や企業の広報の方と記事の企画の打ち合わせをすることが多いのですが、その際に指針となる、当媒体が大事にしている5つの「基準」をまとめました。これで執筆者の方も私自身も迷いません。
前職では、企画を考えるときに、その会社の「基準」をそこまで突き詰めきれなかったように思っています。自分の企画に周囲からフィードバックをもらって修正し、徐々にその会社が求める企画のテイストを掴む。今思えばそのように多少ブレーキを踏みながら働くことで、仕事を十分にやりきれていなかったのかもしれないなと。
だから現職では自分から積極的に「らしさ」を言語化し、編集長に確認してもらうなどして、なるべく早く「基準」を掴むようにしました。この基準があることで、企画を考える際に悩む時間は圧倒的に減り、全力で働けています。
ストーリー形式だから自然と受け入れられる
ー編集者として、この本の特徴はどんなところだと思いますか?
ストーリー形式であることに必然性があることじゃないかと思います。「成長マインドセット」は自身の成長について悩みを抱える主人公がコーヒーショップでマスターに悩みを打ち明けるところから始まります。主人公はマスターと対話することでアドバイスを自分の中に落とし込んでいきます。
例えば、「ブレーキを踏まない覚悟をする」ということが成長する上で大事なことだと説明を受けた主人公が、「一生悩まずに進む覚悟をするのは難しいですよね」といった疑問をぶつけると、「一生の覚悟ではなく、期間限定で決断するんです」と言われる。
ビジネス書の著者には、他の本との差別化などのためにストーリー形式にしたがる方が多くいらっしゃいます。しかし、少々厳しいことを言えば、「ストーリー形式ありき」で物語を書こうとすると失敗の可能性が高いんです。それは、ストーリー形式を選ぶ必然性がない内容だからではないでしょうか。
しかし「成長マインドセット」のストーリーには不自然さがなく、読者の疑問に対して、先回りして答えをだすように、登場人物たちが動きます。おかげで著者のメッセージを自然と受け入れることができます。おそらく著者の吉田さんご自身が誰かの相談に乗る際にも、マスターと同じようなやさしい空気感でアドバイスをするのだろうと思います。そのプロセスを本の中で再現するためにストーリー形式にしたのだと思いました。
読者は、ストーリーを通じてまるで実際にマスターと対話をしたかのような経験を得ることができます。だからこそ、「成長マインドセット」は自身が成長するためのヒントをくれるメンターのような役割を果たしてくれるのだと思います。
ー具体的にどんな人が読むべきだと思いますか?
経営者に限らず、新しいことにチャレンジしたい、新しい環境に身を置きたいと思っている人ならば誰でも参考になる内容なのではないかと思います。仕事でも、学校でも、地域のサークル活動でも、何でもいいんです。
そんな人たちにとってこの本は、いわゆるメンター的な役割を果たしてくれるはず。私自身、もうすぐ40歳という年齢で、かつフリーランスとして活動しているのでなかなか自身のキャリアについて相談できる人がいません。しかしこの本を通して自分の考え方を整理し、成長し続けることができます。
ーご自身の今後の展望について教えてください。
今やっていることと大きく変わりはありません。これまでどおり編集者として、記事を通じて、悩みを抱える方を解決に導くヒントとなる内容を発信していきたいと思っています。それこそ、吉田さんに「当事者意識」について執筆いただいた記事は(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55664)、私が担当した記事の中でも特に多くの反響がありました。
吉田さんのような素晴らしい方は何人もいらっしゃいますが、彼らが物理的に会える人数には限界があります。だからこそ今回の「成長マインドセット」のように、その考えを本としてわかりやすく発信することには価値があると思うのです。