「成長マインドセット」を取り入れることで、組織・個人はどう変わるのか。今回は、ベンチャーキャピタリストとして20年以上国内外の起業家支援を行い、12社の上場4社のM&Aを実現する、Draper Nexus 代表 中垣 徹二郎さんにお話を伺います。
中垣 徹二郎
96年日本アジア投資株式会社へ入社。20年以上一貫してVC投資現場に携わり続け、国内アーリーステージVCファンドのファンドマネジャーとして約40社へ投資し、12社の上場、4社のM&Aを実現。 現在はSHIFT, Innova, Uncover truth, trippiece, TokyoBaseの5社にて社外取締役を務める。 2011年、シリコンバレのDraper Venture NetworkのネットワークファンドとしてDraper Nexusを設立。日本側の代表としてVC投資業務に従事、日本とシリコンバレーを中心に世界中に広がるネットワークを通じて投資先企業の育成支援を行っている。
大企業からスタートアップへの転職で大切なこと
ーベンチャーキャピタリストとして数々の成長企業を支援されてきた中垣さんから見て、『成長マインドセット』のどの部分が印象に残りましたか?
「他責にしないは100%」の部分が一番印象に残りましたね。スタートアップに優秀な人材がたくさん流れる今の時代だからこそ、この考え方は非常に重要だと思います。
例えば、シリコンバレーでは「大企業よりもスタートアップ」という選択は一般的で、大企業で働き続けることの方がリスクであり、スタートアップ含めチャレンジし続ける方がリスクとリターンが合う、という判断があります。日本ではまだまだ「あえてスタートアップに行くの?」という雰囲気がありますが、近年はスタートアップがブームになり、働く人の数が増え、優秀な人の比率も増えました。23年この業界にいますが、以前と比べて、他の組織で中核にいた人がスタートアップに来ることが増えていると思います。
背景には、日本を代表する企業の破綻やスタートアップの急成長など、「大企業だけが選択肢じゃない」という流れがあるんだと思います。「自分自身が成長する環境に身を置かないと」と考えている人は多いんじゃないかなと。
一方で、「この環境にいれば成長できる」という受け身の姿勢は非常に危険です。スタートアップは小さな組織だからこそ、自ら動かない人がいるとすぐに停滞してしまう。よくも悪くも一人当たりの影響力が大きい環境だからこそ、自責や当事者意識は必須なんです。そういった意味で、人材が流動化している日本のスタートアップ業界で、非常に大事になる考え方だと思います。
ーメンバーが当事者意識高く働くためには、どのようにマネジメントするべきなのでしょう。
やはりトップの意識や振る舞いに尽きると思います。事実、経営者からメンバーの批判がしょっちゅう出て来る会社はパフォーマンスが悪いんです。「社員が悪いのは社員のせいで、自分のせいではない」という意識があるからですね。トップがそういった考え方を持った状態では、他のメンバーが会社に当事者意識を持つことは難しいですよね。
ベンチャーキャピタリストのアイスバーグ
ーベンチャーキャピタリストとして成果を出している中垣さんのアイスバーグについて伺いたいです。
ベンチャーキャピタリストとして、という前提でお話をすると、氷山の一番上、「成果」の部分は「新しいビジネスや人を支援することで、日本や世界にインパクトを与える」ということをゴールにしています。そのためにVCとしてできることに尽力しています。
2層目の「スキル・能力」にくるのは「外の世界と繋げて気づきを与える力」でしょうか。仕事柄、これまでに少なくとも4000社以上の会社と出会いました。中には、大きく成長して上場した企業もあれば、上手くいかずに畳んだ企業もあります。その中で、目の前の会社の課題に似通っているケースや共通項があるものを、いかに気づきとして提供できるかが重要なスキルだと思います。シリコンバレーでは、起業経験があってテクノロジーがわかってMBAを持っていてと、いわばスーパーマンのような人がVCをやっています。答えがない仕事だからこそ、起業家が見ていない外の世界との間をつなぎこむ役目になることに価値があるのかなと考えています。
3層目の「行動・振る舞い」については、真摯に向き合うということに尽きます。その中には良い時にムチを打ったり、悪い時に鼓舞したりということも含まれます。野球の打者と同じで、「3・4割の打率を超えると一流」と呼ばれる職業なので、裏を返せば支援先の大半は苦しい時期を迎えます。そんな時の立ち振る舞いはとても大事ですね。
そのまま4層目の「意識・哲学」の部分につながりますが、どんな時もブレないこと、尊敬を忘れないことが一番大事だと思います。うまくいっている時も苦しい時も、ブレずに並走する。それが、結果として大きな成長に繋がり、日本・世界の経済に大きなインパクトを生み出せたらという思いが根底にありますね。
新卒でVCとして働き始めて20年以上経ちましたが、僕の社会人生活は「失われた20年」と呼ばれています。アメリカが経済の競争力を保っているのはVCが支援したベンチャー企業が世界規模での活躍をしているから。僕も同じことをしていたのに、日本ではまだ理想の状態に程遠い。正直、ふがいないなという気持ちもあります。だからこそ、目標の成果に対して、どうアイスバーグを大きくしていくかが大事だと思います。
中垣 徹二郎さんのアイスバーグ
※書籍出版前に実施した同内容の研修、書籍のサンプル原稿をご覧いただいた感想に基づいたインタビューです。