事業を急成長させるために重要である「戦略思考」を他社のリーダーと切磋琢磨して学ぶ。そんなコンセプトのもと、成長マインドセット著者吉田 行宏氏が主宰する招待制の公開イベント「リーダーズ戦略思考塾」。第4回のテーマは「戦略思考デスマッチ」です。急成長スタートアップの戦略をシェアし、議論をぶつける。活況の様子をレポート形式でお届けします。
開催概要
日時:11月17日10時ー13時
場所:31VENTURES Clipニホンバシ
テーマ:
参加者:40名
運営:リーダーズ戦略思考塾企画・運営チーム
やらないことを決めることが重要
今回は前回までと形式を変更し、各社の「戦略デスマッチ」形式です。IDOM・FiNC・タビナカ・LIFE PEPPER・POLの5社のこれまでの成長戦略をプレゼン形式でシェアし、他社から質問や意見・フィードバックをぶつけるという内容です。登壇者は創業からこれまでの戦略を発表し、周りからは理解を深めるための質問を行います。
各社シェアの前に吉田さんより注意点の説明がありました。
「今までは営業・PR・採用と、対象分野を絞っていましたが、今回は戦略全体の話でかなりレベルが高いです。それでも、今回はあえて社長以外のメンバーに発表をしてもらいます。自分で考えて話をしてもらうことが重要で、聞き手の方も『その会社は知らない』というスタンスではなく、自分で考えてみることが重要です。詳しく知っていれば戦略が言えるという訳でもありません。戦略思考とはそういうものです。」
ここからは各社の戦略発表に移ります。
※本レポートでは当日の発表のうち、一部を掲載いたします。全編はぜひ会場にお越しください。
1社目:ガリバー(現:IDOM)創業〜スケール時
https://221616.com/idom/
中古車買取専門店という業態を考案し、エンドユーザーから買い取った中古車をオークションで売り切るモデルを構築。
○戦略ポイント
戦略とは「戦いを略したもの」。やらないことを決めることが重要
ガリバーとしては、あえてやらないことを決めるという方針で、「在庫を持たない」「中古車の展示をしない」「小売をしない」という戦略を選択し、自社を買取専門店と定義しました。このモデルのデメリットとして小売利益が取れない(オークション販売のため)などの点がありながら、在庫ロスがない、販売コスト・展示コストがかからず高回転率というメリットが得られます。(中略)その他、FC展開やネット買取の実施、ネットでの自動車販売など「非常識経営」と言われる経営を行っていました。
○質疑応答
・後発企業に負けなかった理由は何か?
創業期からトヨタやホンダが参入したらイチコロだと言われ続けていたが、実際負けませんでした。実際にガリバーが買取専門店と名乗ると、他の競合企業も同じ業態を名乗り始めました。そういった競合に負けなかった理由として、いくつか理由はありますが、例えば圧倒的な情報構築システムを開発したのも一つです。
・コスト先行するモデルだが、そこに資金を投下できたのはなぜか?資金は潤沢だったのか?
お金は全然ない状態で始めていました。走って加盟金を増やし、その原資で自転車操業です。
・戦略とはやらないことを決めるというのは頭で理解しつつ、とはいえやりたいことは出てきてしまう。やらないことを決める決め手は?
攻略ポイントやキラーパスと言われるように、インパクトのあるものに特化することが重要です。力がついたら複合的に施策を打つこともできますが、最初から何でもかんでもやりだすのは難しいです。
・ガリバーの組織的な強みは?
不可能と言われる目標に挑戦できること、全社一丸で取り組めること、最後まで諦めないこと。それらがコアだと思います。
・吉田さんが使うフレームワークで企業の成長に必要な4要素として、ビジョン、事業戦略、組織戦略、市場選定というものがあるが、ガリバーはどこから手をつけたか?
ガリバーは全部注力していました。順番はあるようでありません。やりようによっては全部取り組むこともできます。
・事業フェーズごとにどう戦略を決めて、どう浸透させていったか?
最初から綺麗に戦略を描いていた訳ではありません。やりながら描いていったという状態に近いです。よく、戦略の話は全部後付けでしょ?という人もいますが、それでは構想力が低すぎます。組織への浸透という意味では、全社会議などに注力していましたね。
それがなければ今の自社がない、というのが戦略
2社目:POL
https://pol.co.jp/
理系学生に特化したダイレクトリクルーティングサービス「LabBase」、企業の新規事業と研究室を繋ぐ「LabBase R&D」などを行う。
○戦略ポイント
・超泥臭い学生ネットワーク構築戦略
理系学生のDB獲得のために様々な施策を行いました。色々な施策が失敗する中で、唯一うまくいったのが、研究室に直接訪問して登録してもらう施策でした。現在では学生数が8000人を突破し、国内トップクラスのDBになっています。さらに、研究室の開拓を行なっていた学生インターンは、現在執行役員含むコアメンバーになっています。
・学生×プロ戦略
吉田さんを中心にCXOクラスの方々を顧問という形式で誘致しました。学生含む若手のチームが吸収力・体力・愚直さという強みを生かしつつ、社内外のプロで補強するようなイメージです。
○質疑応答
・市場が縮小していく時の戦略は?
もともと市場が小さいのは見えていたので、ラボテックというコンセプトで、共同研究市場、薬品、機械など、研究に関わる市場を順番にとっていく想定で考えています。
同社CEO加茂氏からの補足
上記2つの戦略に加えて、自社をどう定義するかが成長に大きく影響しています。理系就活支援の会社ですといっていたらあまり共感してもらえず投資も集まらなかったはず。人を巻こむために、高くて良い旗を掲げるというのが重要な戦略でした。
吉田さんからの補足
「もしそれがなかったら今の自社がない」というものが戦略です。誰でも始めたら考えるような話ではなく、最初の切り口が重要です。加茂さんの場合、最初に起業の相談をしてきた時はエンジェルのマッチングサービスでした。しかし、それは彼の強みと合わない。一方で現事業案に関しては、理系研究室は他のプレイヤーが入り込めないので強みになる。リアルな強みを作るというのが重要でした。
まずは組織を育てるところから始めた
3社目:LIFE PEPPER
https://lifepepper.co.jp/
インバウンド、アウトバウンドなど、日本起業の海外マーケティングの総合支援を行う。
○戦略ポイント
・創業期:素手戦略
学生起業でメンバーほとんどが社会人経験がないため、実績もノウハウもないチームでした。そのため、最初は素手で戦って基礎体力をつけました。展開事業を発掘するために、新しい事業を出しては潰すということを繰り返し、超高速でトライアンドエラーを繰り返しました。そのために、全員経営者というマインドを大事にしていました。
・発掘期:得意技戦略
その後、チームに海外出身者が多いという強みを生かし、海外デジタルマーケに事業ドメインをフォーカスしました。立ち上げ当初からその文化背景はありつつ、インバウンド市場の加熱も後押ししたのも一つの理由でした。若さやデジタルネイティブであるという特徴をかけあわせようという思いもありました。
・育成期:全員武者修行戦略
全員営業で売上を伸ばすことに注力しました。様々なPJTに分散した組織状態から、全員営業にフォーカスすることに決めました。
○質疑応答
・創業期におけるトライエラーの撤退基準はなんですか?
明確な基準というよりは、事業が継続できない状況になり結果撤退することが多かったです。
吉田さんより補足
特に創業期は「自分たちは赤ちゃんだよね」という認識でした。だからこそ色々やってみて学ぶ。やってみないとわからないから会社が潰れない程度に色々やってみて学ぶ。失敗するのをわかっていてやっていました。武器がないのに稼ごうとしていましたね。そもそも続かないので撤退基準も何もないです。今は力がついてきたので、絶対やめない覚悟で新しいプロダクトを作っています。事業ではなく組織戦略から入った稀有な例です。
・撤退を繰り返すことで諦める癖がつくような懸念はなかったのか?
(吉田さん)体験学がないと人は深く理解できません。心の底から諦めないという気持ちを掴むためには失敗が生きることもあります。
プロフェッショナルに応援される、壮大なビジョンを
4社目:FiNC
https://finc.com/
ヘルスケア・ダイエットのアプリ(月額課金モデル)を中心に、ヘルスケア市場で多岐にわたって事業展開。
○戦略ポイント
・リアルをIT化戦略
FiNC社CEOの溝口さんはフィットネス業界で最年少でものすごい業績を収めた経営者で、非常に現場の知識や経験がありました。そんな溝口さんがFiNC設立にあたり、現CTO南野さんを中心とした優秀な開発会社をそのまま巻き込み、これまでの知見をIT化するという戦略を行いました。
・トップダウン多角化戦略
とはいえ、いきなりBtoCのアプリが当たるのは難しいため、ヘルスケアという数兆円マーケットに対して新しい施策を多数行いました。様々な施策には一貫してデータ取得という目的もありました。また、進め方の特徴として、民主主義的に進めると止まってしまうのであえてトップダウン型でスピード重視で行なっていきました。
・超営業力CVC戦略
事業を多角化するとすぐにマネタイズできないこともあり、CFOの小泉さんが参画されてからは、強烈な営業力を駆使して資金調達をより強化しました。その際の戦略として、資金だけでなくアライアンスの効果も考え、CVCを選んだのも一つの戦略でした。
・アプリが見えてきた、ガンガンいこうぜ戦略
そこからメイン事業のアプリの収益化が見えてからは、大量のマーケティングを実施しました。
○質疑応答
・すごい経歴の方が集まっているが、そういった人を巻き込むための戦略は何か?
創業者のビジョンが圧倒的に大きく、この指とまれの高さが圧倒的に高いこと。すごい成果を出している人たちはしょぼいビジョンやアイデアでは貢献したいと思わない。応援されるような壮大なビジョンを掲げることが重要。
・マネタイズポイントが多いことによる弊害はないのか?
組織の分散が大きくなるという点はある。しかし、結果さえ出ればみな納得する。投資家含め、やりすぎだろうと言われることが多かったが、結果が出ているので進められている。
レッドオーシャンの中にブルーオーシャンを見出す。
5社目:タビナカ
https://tabinaka.co.jp/
海外旅行の現地アクティビティ予約、現地での旅行サポートのオンラインサービスを運営。
○戦略ポイント
・一点突破戦略
代表の三木氏が19歳で起業してEXITし、そのお金で世界旅行をしていて、現地でアクティビティを販売して稼いだことが原体験となり、海外旅行のアクティビティ予約サービスを開始。某OTAに絞って広告配信を最適化し、顧客獲得。
・キャッシュ雪だるま戦略
利用の多い主要エリアを自社商品にし、収益率改善。キャッシュフローの仕組みを生かしたプロモーション施策で急成長。
・現地をもっと楽しませる戦略
旅の前だけでなく、海外旅行中の市場に参入するため、lineによるリアルタイムサポートを開始。顧客単価が向上。
○質疑応答
・仕入れから内製化はどのように始めたのか?
海外企業のM&Aなどを行なった。
・同時通訳など、技術的に市場状況が変わった場合どうする?
海外で情報にアクセスできないというギャップを埋める際に言語以外の要素も大きい。情報を集められないなど、別の課題が残る以上、価値は保ち続けられる。
取締役今野さん補足
数字で会話できるという組織のカラーも強みの一つ。企業経験者が多く、売上・粗利・販管費などを全員が狂いなく言える。
吉田さん補足
旅行という一見レッドオーシャンに見えるマーケットでも、捉え方次第ではブルーオーシャンがある。そこにアプローチできている例。
日々の仕事に対して、いかに戦略的に考えられるかが重要
各社の発表が終わり、最後に吉田さんよりまとめのコメントがありました。
ガリバーでは非常識経営というコンセプトで、無理だよねと言われることをやってきました。その障壁をどう乗り越えるかが戦略です。日々の業務の中でも、仕事を作業的に取り組むか、戦略的に取り組むかで大きく成果は変わります。経営者にとっては、あらゆるものが戦略で、そうすることで戦略思考が鍛えられます。ちょっと改善して120%というのももちろん大事ですが、200%の成果がでるような頭の使い方を身に着けることが重要です。
以下、参加者からの感想を一部抜粋します。
・個人的には、優秀なメンバーを巻き込むためには、ビジョンが唯一かつ最大の武器だということが最大の学びだった。
・考えて実行する、という中で、どこまで考えるかの深さが非常に重要だと認識した。目指さないとそこにはたどり着かない。
最後に運営メンバーからの感想のシェアがありました。
・他の運営メンバーが自分より圧倒的にレベルが高く、仕事の仕方などがすごく勉強になった。
・一緒に働いたことがないメンバーと協働すること、吉田さんからパーソナライズされたフィードバックをもらえることが大きな勉強機会になった。自分の弱みを見つめ直すことができた。
・自分が意外と戦略を理解できていないことに気づいた。戦略だと思っていることが戦術レベルだということもあった。戦略思考は身につけられるので、これからもっと意識して行動したい。
・PJTを回す中でイメージすることの重要性を認識した。イメージが決まると色々なことがスムーズに進み始めた。戦略についてトップは頭がちぎれるほど考えて、孤高にならざるを得ないシーンもある。ナンバー2以下の人間は徹底的に議論をしかけて自分の思考のブラッシュアップをする必要がある。反対に、トップはそのレイヤーまで少し降りることが重要。トップはナンバー2の戦略思考を鍛えることが重要。
次回は12月15日に実施します。