事業を急成長させるために重要である「戦略思考」を他社のリーダーと切磋琢磨して学ぶ。そんなコンセプトのもと、成長マインドセット著者吉田氏が運営していた支援先限定の勉強会が、招待制の公開イベント「リーダーズ戦略思考塾」として始動しました。第一回のコンセプトは「戦略営業」。企業の売上を担う営業活動に、いかにして戦略思考を活用すべきか、白熱したイベントをレポート形式でお届けします。
開催概要
日時:8月25日10時ー13時
場所:TKP新橋カンファレンスセンター 東京都港区西新橋1丁目15-1 大手町建物田村町ビル カンファレンスルーム6B
テーマ:戦略営業
参加者:40名
運営:リーダーズ戦略思考塾企画・運営チーム
戦略思考をみんなで養う場
イベント冒頭、吉田氏よりリーダーズ戦略思考塾の開催背景について、説明がありました。
「リーダーズ戦略思考塾を開催した背景には3つの理由があります。
・スタートアップはどの会社も人材育成に悩んでいる
せっかくなら一緒に学んだ方が効果が大きい。2年ほど支援先の勉強会という形でやっていたが、参加者の範囲を広げることに決めた。
・リーダー育成の重要性
どの会社も、経営者以外のリーダーが育たないという課題を抱えている。そのため、特にリーダーに特化した勉強会を開催した。
・戦略思考が弱い
事業を急成長させる上で重要な戦略思考が弱い会社、メンバーが多い。この部分はOJTだけでは養いにくいため、現場から離れた、OJTとOFFJTの中間のような場を作ろうと考えた。
これらの前提があるため、会のコンセプトは「みんなで作ること」です。今回は運営チームがたくさんの打ち合わせを重ねて企画をしています。私の立ち位置は講師の講師という位置付けです。運営に携わる人が一番勉強になるので、ぜひ、運営側にも挙手してみてください。」
運営チームにバトンタッチした後は、今回の勉強会の位置付けが説明されました。今回フォーカスするのは、営業を題材にした戦略の観点。戦術、施策などは各社で普段行なっている業務に近いため、この場ではもう一段高い視座に絞って考えます。
営業リソースと効率を劇的に改善する「グレイヘヤー戦略」
一つ目のテーマは「営業リソース拡大戦略」。まずは各班でワークに取り組みます。
ワークに取り組む前に、参加者から質問がありました。以下質問と吉田氏コメントです。
Q:例示されているのは戦略でなく戦術であるという認識だが、どう定義しているか?
A:いきなり「戦略を書いてください」と言ってもなかなか難しいのでこのような例を出していますが、自身のレイヤーに合わせて記入していただき問題ありません。戦略と戦術は分けづらく、同じ事象でもある会社にとっては戦略になり、別の会社にとっては戦術になることがあります。例えば、潰れそうな会社にとっての資金繰りは戦略ですが、安定している会社には戦術にすぎない可能性もあります。戦術にダイナミックさが加わると、戦略になる、という観点もあります。
個人でシートを記入の上、チームで5分間共有し、班で上がった中でよかったものについて全体で共有がありました。以下、各社の発表と、吉田氏コメントです。
・エヴァンジェリスト活用による営業リソース拡大施策
A社:各業界の専門家に対してCXO職(Chief XX Officer)を打診し、自社メディア取材、コミュニティ運営補助などのメリットを提供し、業界キーマン経由の営業ルートを構築。
直接的に資金を払わず営業をしてもらうというのはとても今風の戦略。昔の会社ではありえなかったですが、アンバサダー・エバンジェリストなど最近は色々な会社で増えています。巻き込む動機として、ビジョン共感やその会社が好きだという気持ちに加え、相手にメリットを提示できることが重要です。営業リソース拡大施策の一つとして有効だと思います。
・ソリューションの定義変更
B社:プログラミングスクールを運営。競合が多いため、顕在層にアプローチすると顧客に対して差別化しにくい。そこで、プログラミングを学びたいというニーズでなく、その後の人生を豊かにするというニーズにフォーカスし、テクノロジー人材を輩出するという価値に変えた。
非常にレベルの高い戦略。ミッション、ビジョンにも繋がる話で、自分たちは何者か、何を売るのかというてんを変えた例。売り方を変えることで成果が変わるということは多数あります。
上記シェアを受け、実際に運営チームのPOL社で取り組んだ「グレイヘヤー戦略」について説明がありました。
POL社では、紹介経由での営業成約率が一番高いことに注目し、営業紹介を外部のベテラン顧問に委託する「グレイヘヤー戦略」を実施。顧問紹介会社を介して20名に営業顧問を依頼し、高い成果を記録しているそうです。
同じく、運営チームの岡野氏が在籍していたFiNCでは、当時31歳の溝口CEOを中心とした三代表制として、元みずほ銀行常務執行役員乗松氏(当時65歳)、元ゴールドマン・サックス投資銀行投資銀行部門資本市場本部共同本部長小泉氏(当時51歳)が固めるという、言わばスーパーグレイヘヤーの起用を実施。上場企業の経営者ネットワークを活用した事業展開に成功しました。
第一部のまとめとして、グレイヘヤー戦略に向いている企業のマトリクスが提示されました。
吉田氏からの補足として、
・グレイヘヤーの活用が有効なのは営業領域だけでない
・うちはまだまだと小さくまとまらず、ダイナミックにチャレンジしてほしい
・そうやって発想を大きく転換することが戦略思考
・ガリバー(現:IDOM)時代も、4年で上場するにあたり、内部だけでの展開では間に合わないので、全国でFC化を急速に進め、FC獲得の営業代行会社には破格の成功報酬を払ったこともある
という話が上がりました。
最後に、第一部についてのQ&Aを行いました。以下参加者の質問と、吉田氏の回答です。
Q:営業で顧問に紹介を仰ぐ際、トップを紹介してもらうべきか、決裁権者を紹介してもらうべきか
A:当然決裁者が良いです。しかし、単純な価格・機能面での決裁だけでなく、戦略の発想を変えなければいけないソリューションの場合、戦略の責任を追っている人まで口説かなければいけない必要があります。
Q:顧問を複数抱える上でのマネジメント方法を教えてほしい。売る姿勢があまりに強い場合、理念に背くこともあり得るのではないか。
A:理念を壊してまでやりましょうということではありません。ただ、顧問がクロージングまで行うわけではないので、その後のプロセスでケアを行うことができます。丸投げはリスクがあります。
ダイナミックに組織を変える「全員営業体制」のすすめ
二つ目のテーマは「営業組織体制戦略」。前回同様、まずは各班でワークに取り組みます。
個人ワーク、班での共有を経て、議論での気づきをシェアします。以下、参加者のコメントと、吉田氏からのフィードバックです。
・各社の発表を聞いていて、ビジネスモデルや雇用形態などによって考え方が異なることがわかった
おっしゃる通りです。社長が各数字をどう捉えていて、どうしようと考えているか、そういうことを考えてもらうためにこの場を作っています。
・組織全体のうち、6割が営業人員だが、そのまま60%にはならず、職能的に25%くらいまで下がる。思ったよりも低かったため、もっと増員したほうが売上が上がるかもしれないと思いつつ、紹介経由でのCVRが高いので20%まで下げても戦略次第では売上が上がる可能性があると気づいた。
店舗にいる人=営業リソースではありません。成約率から考えて戦略的に組織図を変えるのはとても有効です。
上記シェアを受け、実際に運営チームのLIFE PEPPER社で取り組んだ「フェニックスプロジェクト」について説明がありました。
フェニックスプロジェクトでは、LIFE PEPPER社で売上が伸び悩んでいる状況に対し、6ヶ月間の売上目標を設定し、社内メンバーで「全員営業」を行いました。
具体的には、それまで20%だった営業リソースが80%まで増加させ、全員で数字を作ることでプロジェクトの達成に至りました。全員に営業業務を担ってもらうという、ダイナミックな判断には、他の業務が進捗しないなどのデメリットもありますが、そもそも単一業務の際は無駄な仕事が多く、リソースが限られた結果生産性が向上すること、営業に触れたことによってメンバーが成長することなどが副次効果としてあげられました。
第二部のまとめとして、営業組織戦略としての全員営業の適用イメージの図が提示されました。
吉田氏からの補足として、
ガリバーでも同じことをやりました。「888プロジェクト」という、あれがあったから今があるよねという取り組みがあります。FiNCでも同様です。組織が硬直化してくると、皆勝手に自分の無駄な仕事を作るため、生産性が下がります。その荒療治の一例として全員営業があります。よく、戦略を変えますといって組織を全く変えないケースがありますが、それでは何も実行されません。組織をダイナミックに変えることでガラッと変わることがあります。
というコメントがありました。
最後に、自社の組織の工数配分をダイナミックに変える可能性を検討するワークを実施し、気づきのシェアを行います。
以下、参加者コメントと吉田氏からのフィードバックです。
・ワーク1で、同じ会社なのに営業工数見積もりに違いがあった。その理由を考えたところ、自分のポジションで色眼鏡が着いてしまうことを認識した。
立場によって組織の見え方が変わることはよく発生します。とはいえ、ベンチャー企業はベンチャーは全員採用、全員広報PR、全員営業が必須です。それを当たり前にできる組織が強いです。例として、ガリバーの羽鳥会長は乗ったタクシーで、「ガリバーというすごい会社がこのあたりにあるらしいですね」と必ず言っていました。そういった意識が重要です。
「どんなカルチャーの会社を目指すべきか?」
組織カルチャー戦略の重要性
第三部では、組織カルチャー戦略をテーマに、まず事例としてリクルート社について共有されました。
上記のように、会社におけるカルチャーについてマトリクスで整理された図が提示されます。
その上でワークとして、自社の現在のポジション、目指すべきポジションを考えます。
その後、チームで行われた議論や気づきのシェアを行いました。以下、参加者コメントと、吉田氏のフィードバックです。
・現状は左下、理想は右下にいること。最高の状態は営業が必要なく、自信があるサービスを使いたいと相手から言ってもらえる状況。一方で、営業のマインドを持つことは重要。
理想はおっしゃる通りです。とはいえ、そこまでの進め方として、一度営業カルチャーの方に入っていくこともあり得ます。「いいものを作っているから」と思考停止してしまうことはよくないです。
・もともとプロダクトを持たずに始まった会社のため、今は左上。理想はgoogleのあたり。そのために組織体制やカルチャーを変えていく必要性を感じた。
googleはプロダクトがものすごく強いが、それでも営業に力を入れています。(元google在籍者)テクノロジーの変化によってプロダクトの競争力が下がったり、新規事業で営業が必要になったりするので、営業ができないことは弱みになりえるからです。反対に、営業力を過信するとプロダクトが育たないという弊害もあります。
リーダーが変わると会社は激変する
最後に、今日の学びをシェアし、今後生かしていくことをシートに記入しました。
以下、参加者の気づきと吉田氏のフィードバックです。
・全員営業の例で上がっていた、みんな全部やるとことで生産性が上がる、というのはお大きな気づきだった。全体が見える状態にありながら、分業化をしすぎていた。
専門性を追求するか、総合的に色々させるかはメリットデメリットがあります。専門化を行うとパフォーマンスは上がるのが、全体最適視点が失われる可能性も上がります。短期で成果をあげるならブリンカーをつけて走りきるほうがいいが、それだと疲弊します。どちらが正しいとは言えないが、そのメリットデメリットを考えることが重要です。担当者レベルの方に色々と考えさせてしまうと混乱してしまいますが、皆さんはリーダーなので違います。皆さんの視点や発想が変わると会社は激変します。
最後に、運営チームからの学びや気づきの共有がありました。
・戦略思考とは複眼思考であると強く認識した。個人的には、特に視点の高さや長さが足りていないという課題感があるので、通常業務でも意識していきたい。
・ファシリテーションはマネジメントだという吉田さんの言葉がしっくりきた。具体と抽象を行き来してゴールまで進めていくプロセスが勉強になった。
・このイベントは講師サイドがおすすめです。開催までに複数回吉田さんからレビューをいただき、それだけでも価値が大きかった。
・吉田さんと準備を進める中で、このスライドにこの言葉を入れなければ、このセリフを必ず入れなければ、といった細部のこだわりが凄かった。自分はこれくらいでいいやと思ってしまう節があったので、良い模範となった。
最後に、吉田氏より、
「継続しないと意味がありません。この勉強会も2年間トライアルをして今の形になりました。人が成長するには時間がかかります。特にリーダーがマネジメント力や戦略思考力をあげるのには時間がかかります。やるかやらないかの差は大きいです。この場は戦略思考の高地トレーニングのような場所です。可能な限り継続していきたいです。」